相対性理論の証明を助けた測定機

水曜日, 3月 28, 2018

「世界でもっとも真球に近い人工物」の測定

皆さんは、これまで人類史上で最も真球に近い人工物といわれていたものが何かご存知でしょうか?

それはNASAの「グラビティ・プローブB」探査機計画で使われたジャイロスコープのローター用真球で、ギネスブックで「世界でもっとも真球に近い人工物」として記載されており、この1.5インチ(3.81cm)の真球は真球からの逸脱が1000万分の1インチとされています。
これは球の中心から表面までの距離が、表面上のどの地点で測っても7.62nmの誤差以内でまったく等距離であるということを意味します。
この球が地球の大きさであったとすれば、地球上の山や谷といった起伏はすべて3m以下に収まってしまいます。


その測定を行ったのが、テーラーホブソンの「タリロンド
73」真円度測定機でした。

グラビティ・プローブBのアイデアは、1960年にスタンフォード大学の学科長であったシフ氏が提案したものとされています。
その目的は、1916年に登場した、相対性理論に登場する2つの力の存在を検証することでした。
これまでのニュートンの重力論では、重力はその間に存在する空間に関係なく、全ての物体に瞬時に働く力とみなしてきました。しかし、新しいアインシュタインの重力論では、重力は単なる「力」ではなく「場」であり、空間・時間・質量は互いに独立ではないと考えました。
そのため恒星や惑星のような巨大な質量の周りでは、時間や空間が「歪む」のです。
具体的にグラビティプローブB計画で検証が目指されたのはGeodetic Effect(歪み効果)と呼ばれる地球の質量によって生じる地球の周辺の時空の歪みと、地球の自転によって生じるFrame-dragging effect(レンズ・ティリング効果 又は 慣性系の引きずり効果とも)と呼ばれる2つの力です。

グラビティプローブB探査機の主要な構成要素はシンプルで、基準となる遠距離にある星を常に指し続けるテレスコープとジャイロスコープを搭載した衛星が両極を通る軌道上640kmの上空を周回し、キャリブレーション期間を除いて約1年間の間データを収集します。この際基準となるテレスコープと、重力によりずれるジャイロスコープのスピン軸のズレ量を比較します。軌道面に対するズレ量がGeodetic effectにより、地球の自転方向のズレ量がframe dragging effectにより生じるはずで、その実測値と理論上の予測値を比較することで計画はこれらの力の存在を証明しました。

この実験の核の一つがジャイロスコープのローター真球でした。この実験はそもそも回転中の物体は常に同じ方向を指し示すという回転慣性(rotational inertia)の性質を利用したものです。回転中のコマは常に同じ方向を向いて安定します(上を向き続ける)が、摩擦により速度が落ちると転倒してしまいます。摩擦のない(擬似)真空中であれば、このコマ=ローターは常に同じ方向を向くはずです。このジャイロスコープローターは時空の歪み以外の外部の力(太陽放射、磁場、電荷)といったを遮断しなければならないのはもちろんのこと、形状、表面性状、密度といった回転に影響を与える要素を厳密にコントロールしなければなりません。理論上の時空の歪みの予想値は非常に小さな値であり、これらの性質は非常にタイトにコントロールしなければなりません。


そのため、この探査衛星は7つのニア・ゼロ(ほぼゼロ)といわれる特性を備えている必要があり、そのうち3つのニア・ゼロは真球に関するものであり、うち一つがその真球形状に関する次の要求仕様でした。

機械的真球度 - 50nm 以下

この真球を製作するために、NASAは独自の4面研磨・ラッピング機を開発しています。石英ガラスを4方向から同時に、数ミクロンの大きさの砥粒を含んだ研磨スラリーで加工することで、要求された精度を達成しました。



エラー分離法

この世界でも最高精度の真球の真円度(真球度)を検証するのに使われたのが、タリロンド73システムでした。

最も高い精度で真円度を測定するには、分解能やノイズといった性能はもちろんのこと、装置自体の回転部であるスピンドルが持つ誤差を測定値から分離する必要があります。本実験では、弊社のUHPRシステムと同様の方法で、測定機スピンドル誤差を定量化し、補正しています。UHPRシステムでの補正とは、エンコーダ付きのロータリーテーブルにより、異なった角度で同じ部品(マスタ)を何度も測定し、スピンドル誤差とマスタ自体の形状を分離する方法です。インデックステーブルにより異なる角度で測定した場合でもワークの形状誤差は回転した角度分だけ追従して回転するはずですが、スピンドル位置は固定されているためスピンドルの持つ誤差は回転に追従しません。こうしてスピンドル自体の持つエラー成分とワークの持つエラー成分を分離し、スピンドル誤差を補正することによって最も正確な測定が可能になりました。

実際のグラビティプローブBの真球の測定では、専用の回転可能な治具を用いて加工中は4回の大円(子午線方向)の測定と一本の赤道方向の測定を行って真球を評価し、最終的には16本の大円(子午線方向)の真円度測定が行われ、それら全てを結びつける赤道方向の測定をもう一度行い、スピンドル誤差を補正した後等高線を示す「コントア・マップ」として算出されたようです。

こうして製造・測定された真球が、世界で最も真球に近い真球として、ギネスブックに登録されている真球なのでした。

参考文献:

Gravity Probe B Experiment “Testing Einstein’s Universe” Press Kit, April 2004, NASA, from https://www.nasa.gov/pdf/168030main_hi_res.pdf

The Gravity Probe B EXPERIMENT “TESTING EINSTEIN’S UNIVERSE” Post Flight Analysis – Final Report March 2007, Stanford University, from

http://einstein.stanford.edu/content/final_report/GPB_FinalPFAR-091907-scrn.pdf